長年勤めた会社を定年退職したら退職金があると思っていませんか?退職金の支給は特に義務づけられているわけではありません。そのため、退職金が出ない会社も多くあります。その場合に心配なのが老後の生活資金です。
今回は退職金がない人の老後資金の用意の仕方についてご説明します。
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1.老後の生活資金はいくら必要?

総務省の調査によると高齢者(60歳以上)夫婦の無職世帯の1ヶ月の消費支出は下の表のように243,864円、税金や社会保険料を含めた総支出額は275,706円ですが、実収入は213,379円で62,327円不足することになります。
同様に高齢者(60歳以上)の単身無職世帯の1ヶ月の消費支出は143,826円、税金などを含めた総支出額は156,374円ですが実収入は115,179円で41,195円の不足になります。
【高齢者世帯の1ヶ月の平均消費支出】
高齢者(60歳以上)単身無職 | 高齢者(60歳以上)夫婦無職世帯 | |
食料 | 35,137円 | 62,432円 |
住居費 | 13,814円 | 17,500円 |
光熱・水道 | 13,359円 | 20,385円 |
家具・家事用品 | 5,204円 | 8,641円 |
被服および履物 | 4,509円 | 6,975円 |
保健医療 | 8,348円 | 15,405円 |
交通・通信 | 12,497円 | 27,286円 |
教育 | 0円 | 4円 |
教養・娯楽 | 15,804円 | 26,066円 |
交際費 | 20,234円 | 30,484円 |
その他の消費支出 | 14,920円 | 28,686円 |
消費支出合計‥① | 143,826円 | 243,864円 |
非消費支出(税金や社会保険料)‥② | 12,548円 | 31,842円 |
支出合計(①+②) | 156,374円 | 275,706円 |
実収入‥③ | 115,179円 | 213,379円 |
不足分{③-(①+②)} | 41,195円 | 62,327円 |
余裕のある老後生活を過ごそうと思うならば、もっと多くのお金が必要になります。
1-1.平均寿命まで生きるといくら足りない?
2016年に厚生労働省が発表した日本人の平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳でした。男性が単身世帯でこの年まで生きると仮定した場合、
- 毎月約42,000円不足する
- 60歳から81歳まで21年間ある
という前提で計算すると【4.2万円×12ヶ月×21年=10,584,000円】で、トータルで約1,058万円が足りないということになります。
女性はさらに平均寿命が長いので87歳までの27年間では、【4.2万円×12ヶ月×27年=13,608,000円】で、約1,361万円も足りないということになります。
勤め先の退職金が1,000万円以上ある場合はそれを使って何とかやりくりすることが可能ですが、退職金がない場合や自営業の人は何らかの準備が必要ということになります。また、退職金が出る会社でも中途採用などで勤続年数が少ない場合は退職金も少ないので注意しましょう。
2.老後資金の準備方法
老後資金の準備方法は、次のようにいくつかあります。
方法 | 特徴 | 元本割れのリスク | |
貯蓄 | 定期預金 | 一定期間お金を預けるもので、毎月少しずつ貯める方法とボーナスなどの一時金を預ける方法があり、普通預金よりも若干利子が高い | なし |
自動積立定期預金 | 毎月一定額を自動的に定期預金として貯めていく方法 | なし | |
財形貯蓄 | 公務員や一般企業に勤める人が給料から天引きして貯める方法 | なし | |
個人年金 | 個人年金保険 | 生命保険会社が扱う保険の一種で保険料を積み立てて将来年金として受け取る | ほぼないが商品によっては払込料よりも受け取り額が下回ることもある |
確定拠出年金 | 自分で運用先を選んで運用するもので、個人型と企業型がある | あり | |
国民年金基金 | 自営業者などが任意で加入できる公的年金制度 | なし | |
投資 | 債券投資 | 国債・社債・地方債で満期まで保有すれば利子と元本が受け取れる | 基本的になし(ものによってはリスクあり) |
投資信託 | 預けたお金をプロが運用するもので少額からの投資が可能。確実に利益を保証するものではない | あり | |
株式投資 | 株券を購入し、配当金や株価上昇時に売却することで利益を得る方法だが、確実に利益が出るとは限らずリスクがある | あり |
これらの方法には「安定性はあるが収益性は低い」「高い収益が期待できるがリスクもある」など、それぞれ一長一短があります。それぞれの特徴を理解して、運用先を分散して増やすのがおすすめの方法です。
3.老後資金の準備は計画的に
やみくもに「お金を貯めなきゃ」と思っても、一体いつからいくら貯めていけばいいのかわかりません。そこで、計画的に準備していきましょう。
3-1.老後の収入を計算する

まず60歳以降の収入がどれくらいあるのかを考えます。
- 定年退職後も働ける間は働く…1ヶ月の収入がどれくらいかを計算する
- 公的年金がいつからいくら受け取れるかを計算する
現在の勤め先で定年退職後も働ける制度があるかどうかを確かめてみましょう。多くの場合は65歳まで継続雇用が可能ですが、給料はそれまでの6割から半分程度になると言われています。また、公的年金は現在の制度では老齢厚生年金(会社員・公務員の場合)と老齢基礎年金が65歳から受け取れますが、受給額がどれくらいになるのか年金定期便などで確認する必要があります。
人によっては60歳からの受給が可能ですが、多くの人は60歳から65歳までの5年間は何らかの形で収入を得なければなりません。継続雇用、再就職、アルバイトや派遣労働などで収入を得る方法を考えましょう。なお、公的年金の受給年齢は今後変更になる可能性があるので、ニュースなどをチェックすることが大切です。
3-2.老後の支出を計算する

次に老後の支出がどれくらいなのかを計算しましょう。先述した総務省の家計調査は平均額なので、自分の家では何にいくらかかるのかを考える必要があります。
- 住居費(家賃または家のローン、駐車場代など)
- 食費
- 光熱費
まずはこの3つを現在の支出から考えて予測を立てます。それ以外の支出は今の段階ではイメージしづらいかも知れないので、上の表を参考にしてみましょう。
特に気をつけたいのはローンの支払いです。
- 住宅ローンや教育ローンの支払いはいつまでか
- 生命保険料の支払いはいつまでか
- 自動車を買い替える可能性はあるか
- 家のリフォームをする予定はあるか
こういった大きな額の支出は特に気をつけて計算してみましょう。
3-3.準備すべき老後資金を何年で貯めるか考える
老後の収入と支出から不足する金額を計算しましょう。そして、その額を現在の年齢から逆算して何年で貯めるかを計算していきます。
例えば1000万円を老後資金として貯めたい場合、10年で貯めようと思うと1年間で100万円貯めなければいけません。単純に1ヶ月で割ると約83,000円ずつ貯める必要があります。または夏と冬のボーナスで20万円ずつ貯めて、残りの60万円を毎月5万円ずつ積み立てるという方法もあります。
このように目標額と年数を決めて、どの方法で貯めるのかを考えていきます。目標額と年数での毎月の貯蓄額の目安は以下の通りです。
目標額 | 年数 | |||
10年 | 20年 | 30年 | 40年 | |
1000万円 | 100万円(8.3万円) | 50万円(4.2万円) | 33.3万円(2.8万円) | 25万円(2.1万円) |
2000万円 | 200万円(16.7万円) | 100万円(8.3万円) | 66.7万円(5.6万円) | 50万円(4.2万円) |
3000万円 | 300万円(25万円) | 150万円(12.5万円) | 100万円(8.3万円) | 75万円(6.3万円) |
※( )内は毎月の貯蓄額の目安
早くから準備を始めると毎月の貯蓄額は少なくて済みますが、若いころは老後資金だけでなく結婚資金、子育て資金、住宅資金など多くのお金が必要です。人生設計をしっかり立てて、計画的に積み立てるようにしましょう。
4.老後に借金を残さない

老後に備えてお金を貯めることも大切ですが、借金を残さないように気をつけることも重要です。住宅ローンが定年退職後にも残るようなら、早めに繰り上げ返済をして完済してしまいましょう。教育ローンや自動車ローンなども同様です。老後は収入減少が予測されるため、消費支出と保険料・税金などだけでおさまるようにする必要があります。
老後に旅行や趣味など娯楽を楽しみたい場合は、その分も含めて貯蓄したり、収入を増やしたりすることが大切です。
5.介護費用も忘れずに!

老後で忘れてはいけないのは、要介護状態になったときのことです。いつ、どんな原因でどのような状態になるのか誰にも予測ができません。現在の日本では要介護状態になったら本人は1割の負担で介護サービスが受けられますが、今後は2割負担にすることが検討されています。
現行制度では本人の収入や世帯の収入によって負担額の上限が設けられていますが、それも今後はどう変わるかわかりません。高齢者住宅や施設などでは入居時に一時金が必要なところもあります。子どもに介護を頼めるのかどうかも含めて、家族で話し合う機会を持つといいでしょう。
まとめ
日本人の平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳で、60歳の定年退職後も20年~30年ほど生きることになります。一方、総務省の調査では単身の高齢者世帯で毎月約42,000円、高齢者夫婦世帯で約62,000円が不足するという結果が出ています。余裕のある老後を過ごそうと思えばもっと多くの費用が必要になります。
退職金がない人の老後資金は、次の点に注意して早めに準備をしておきましょう。
- 定年退職後の収入と支出がどれくらいかを考える
- 平均寿命まで生きると仮定して、いくら必要かを計算する
- その金額をいつから貯めるか考えて、毎月の貯蓄額を決める
- 資金の準備にはいくつかの方法があるが、リスクが少なくて少しでも効率的に貯められる方法を考える
- 老後に借金を残さないようにする
完璧に準備することは難しくても、老後を視野に入れて貯蓄計画を立ててみましょう。