認知症による徘徊が社会問題に!徘徊での事故を防ぐための対策

認知症患者がいつの間にか家を出て、そのまま行方不明になるというケースが多発しています。無事に保護されても、自分の住所や氏名を名乗れないので家族と再会できないのが現実です。

認知症患者を抱える家族としては、気が気ではありません。そこで認知症による徘徊を防ぐ対策をご紹介します。

1.認知症患者の徘徊による行方不明者数

認知症患者の徘徊による行方不明者数

厚生労働省のデータによると、全国の認知症患者数は2010年時点で約200万人でした。しかし、今後高齢者人口の増加とともに認知症の患者数が増えることが考えられ、2020年には325万人になると予測されています。そんな中、認知症による徘徊が社会問題化しています。NHKが2012年に全国の都道府県の警察本部を取材してまとめたデータによると、2012年1年間でのべ9,607人もの人が行方不明になっているということがわかりました。

そして、そのうち死亡者数は351人、行方不明者は206人となっています。これらは事件性がなく、事故でもないため、一般に公開されることがありません。

1-1.認知症患者による徘徊事故の例

認知症の高齢者が徘徊した結果、事故を招いたケースをご紹介します。

(事例1)

2007年、愛知県大府市に住む認知症の男性Aさん(当時91歳)が徘徊中に列車にはねられて死亡するという事故が起こりました。

Aさんは事故の10ヶ月前に要介護4の認定を受けています。Aさんの妻も95歳と高齢のため、Aさんの長男(65歳)とその妻(63歳)が親の事業を引き継ぐために実家近くに住むようになりました。「住み慣れた家で生活させてやりたい」という家族は在宅介護を選びます。普段はAさんの妻や長男の妻が面倒を見ていますが、長男の妻がほんのわずか目を離した瞬間にAさんは家を出て行ってしまいました。そして、近くのJR大府駅の改札を抜けて列車に乗り、隣の駅まで移動します。そこで線路に降りたときに、列車にはねられたとみられます。

JR東海は振替輸送の費用など事故による損害賠償金約720万円を遺族であるAさんの長男とその妻に求めます。

それに対し、名古屋地裁(一審)は当時介護をしていた長男の妻と在宅介護をするという方針を決めた長男に対して全額の支払いを命じました。名古屋高裁(二審)では妻のみに半額である約360万円の支払いを命じています。裁判は最高裁まで持ち込まれますが、「家族には賠償責任はない」という判決が下されました。

この事故ではAさんが改札を通過する際やホームを歩く際にJR東海の駅員が呼び止めていれば防げたかも知れません。また、家族が四六時中、目を離さずについて回ることは困難です。この事例は結果的に家族の責任は問われませんでしたが、状況によっては家族に賠償責任を負わされる可能性があるとして当時大きな注目を集めました。

(事例2)

2003年、大阪府に住む認知症の男性は、妻が外出した際にガスコンロを触って出火し火事を起こしてしまいます。隣家に延焼したため、隣家は「認知症の男性を一人だけ残して外出した」として、妻に対して損害賠償を求めました。

一審では妻に43万円の賠償命令が出ますが、二審で和解が成立しています。

1-2.認知症の徘徊で万引きも

認知症の高齢者が徘徊し家に戻ってきたと思ったら、値札のついた商品を持ち帰っていたというケースがあります。本人は盗んだという意識はないのですが、万引きや近所の家から何かを持ち去るという事件が発生しています。

本人に悪気はないのですが犯罪ですし、周囲に迷惑をかけることになります。

2.認知症による徘徊の原因

では、どうして徘徊をするのでしょうか?その原因を探ってみましょう。

認知症はその原因によって、次の4つのタイプがあります。

  • アルツハイマー型認知症
  • 前頭側頭葉変性症
  • レビー小体型認知症
  • 脳血管性認知症

このうち徘徊の症状が出るのは、アルツハイマー型認知症と前頭側頭葉変性症の中の「前頭側頭型認知症」です。

2-1. アルツハイマー型認知症が原因の場合

アルツハイマー型認知症は認知症患者の半数近くを占めるといわれています。アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞が失われる病気で、症状が進行すると「今いるところがわからない」という「見当識障害」が現れます。

何気なく外に出たけれど、自分がどこにいるのか、自分の家はどこなのかわからなくなってしまいます。さらに自分が誰かもわからないために、迷子のようになってしまいます。保護されても住所や名前が正しく伝えられないために家族の元に戻るのが難しくなります。

2-2. 前頭側頭型認知症が原因の場合

前頭側頭型認知症は物事を判断する機能をつかさどる前頭葉の部分が委縮して発症します。前頭葉は「人間らしさ」をつかさどる部分といわれていますが、この部分に障害が発生することで人格や行動に変化が起こります。

主な症状は次の通りです。

  • 急に人が変わったように乱暴になる
  • 落ち着きがなくなる
  • 物事を考えるのが苦手になる(何かを聞かれても「わからない」と答えてしまう)
  • 立ち去り行動(急に部屋を出ていく行動をする)
  • 万引きや無銭飲食

特に急にどこかに出かけてしまうという「立ち去り行動」があるのが特徴で、これが徘徊につながると考えられます。

3.認知症の対策

認知症の対策には国や自治体が主体になって取り組むものと、家庭で取り組むものがあります。まず国や自治体の取り組みを見てみましょう。

3-1.認知症対策~国や自治体の取り組み

認知症対策~国や自治体の取り組み

厚生労働省では認知症の施策として「新オレンジプラン」を進めています。

その内容には「認知症サポーターキャラバン」や「かかりつけ医の認知症対応力向上研修」「認知症カフェなど介護者への支援」などがあります。その中から「認知症サポーターキャラバン」と「かかりつけ医の認知症対応力向上研修」についてご紹介します。

3-1-1.認知症サポーターキャラバン

都道府県や市町村などが「認知症サポーターキャラバン」という活動を展開しています。これは都道府県や市町村、職域団体などで認知症サポーター養成講座を開催し(受講料は無料)、受講した人が認知症サポーターとして活動を行うという取り組みです。90分の講座では認知症に関する正しい知識や認知症サポーターとしての対処方法などを学びます。

また、認知症サポーター養成講座の講師を務めるキャラバンメイトの養成研修も実施しています。2015年末時点でキャラバンメイトと認知症サポーターの合計数は7,134,442人になっています。

■認知症サポーターの活動内容

認知症サポーター養成講座を修了すると、オレンジ色のブレスレット(オレンジリング)が渡されます。サポーターの活動は地域や職域で認知症の人を見かけたときに道案内をしたり手を引いたりします。また、周囲の人に対して認知症の正しい知識をできる範囲の中で伝えるといった活動を行います。

山形県警では警察官と職員全員が養成講座を受講してサポーターになっています。

3-1-2.かかりつけ医の認知症対応力向上研修

高齢者が慢性疾患の治療などで受診する診療所などのかかりつけ医に対して、認知症の適切な診断や家族の悩みを聞く姿勢を持つための研修を実施しています。さらにこれらのかかりつけ医への研修や助言をする認知症サポート医の養成にも力を入れています。

■認知症施策に予算を計上

国では他にも認知症高齢者等にやさしい地域づくりのための施策として2015年度には約48億円を、2016年度には約82億円の予算を計上しています。

施策の内容は次の通りです。

  1. 認知症にかかる地域支援事業…認知症初期集中支援チームの設置や認知症地域支援推進員の設置
  2. 認知症施策等総合事業…認知症疾患医療センターの整備や認知症医療・介護連携の枠組み構築のためのモデル事業など
  3. 認知症関連研究費…認知症の予防や診断・治療法の研究と開発

認知症は原因や治療法などが解明されているわけではありません。そのための研究に予算が使われています。一方、地域で認知症患者とその家族を支える取り組みにも予算が大きく計上されています。なお、厚生労働省では2017年度は予算をさらに増やして90億円の確保を目指しています(2016年9月時点)。

3-2.認知症の対策~家族でできること

認知症の対策~家族でできること

認知症の対策として家族ができることを、次の3つの側面で考えてみましょう。

  1. 認知症の人への接し方
  2. 家の外に出ないようにするための対策
  3. 徘徊して迷子にならないための対策

ではひとつずつ見ていきます。

3-2-1.認知症の人への接し方

認知症の人はほんの一瞬、目を離したすきにどこかに行ってしまいます。これは在宅介護でも施設介護でも同じで、介護をする人は気が休まることがありません。

しかし、認知症の人を叱るのは逆効果になります。「おじいさんはまたどこかに行って!」と文句を言いたい気持ちはよくわかります。しかし、叱られた本人はますます家にいるのがイヤになり、家を出ていこうとします。

「どこに行きたいの?」「トイレはこっちだよ」などと優しく話しかけてあげましょう。トンチンカンな答えを言ったときは「それはここじゃないよ」と誘導してあげると落ち着きます。

3-2-2.家の外に出ないようにするための対策

無理やり家の中に閉じ込めようというのではなく、外に出ようとしたら家族がわかるようにするグッズがあります。

■人感センサー付きチャイム

人が通ると赤外線センサーが反応してチャイムが鳴ります。乾電池で作動するので電源がない場所でも設置が可能です。ただし、犬や猫など動物の動きにも反応するのでペットを飼っている家庭ではたびたび音が鳴るのが難点です。

また、認知症の人は玄関から出るとは限りません。裏口や大きな窓から出ることもあるため、あちこちに設置する必要があります。価格は1,500円~3,000円程度なので、出入りする可能性がある場所はすべて設置しておくと安心です。

録音機能が付いているものもあり、「どこに行くの?」「ここから出ちゃダメだよ」などと家族の声で録音しておくと、外に出るのを防ぐ効果があるといわれています。

■離床検知センサー

ベッドに取り付けて、ベッドから離れたら音で知らせるセンサーです。ベッドのシーツの下に敷いて離れたら知らせるタイプと、床に敷いて足が触れたら知らせるタイプがあります。

ポータブルトイレを使用している場合なども介助に行くのに役立ちます。

3-2-3.徘徊して迷子にならないための対策

どれだけ気をつけていても、出かけてしまうことがあります。そんなときに迷子にならないための対策です。

■衣類や杖に名前と住所を書いておく

衣類や杖、帽子などいつも持ち歩くものには必ず「名前」「住所」「電話番号」を書いておきましょう。油性ペンがおすすめですが、長く使っていると消えてしまいます。そこで子どもが学校に持って行くものに付けるネームテープを利用すると便利です。アイロンで衣類に貼り付けられるので、上着、シャツ、ズボン、靴などすべてに貼っておくと安心です。

また、万が一行方不明になったとき、靴だけが落ちていたという場合の手がかりになります。靴にも忘れずに名前と住所を書いておきましょう。

■GPS機能を利用する

GPS機能がついた携帯電話を持たせる方法です。ホームセキュリティ会社でもGPS装置を提供しています。居場所を突き止めるのに役立ちます。

■自治体の徘徊高齢者探索システムを利用する

自治体によってはGPS装置を貸し出すサービスを実施しているところがあります。

(品川区の例)

対象:区内在住の65歳以上の徘徊歴のある高齢者を介護する家族

サービス内容 料金
基本料金 位置情報対象者1名につき月540円
オペレーターを利用した位置情報提供料金 利用1回につき216円
インターネットを利用した位置情報提供料金 1ヶ月2回までは無料、3回目以降は1回108円
現場急行料金 利用1回につき10,800円

実施していない自治体もあります。一度聞いてみましょう。

■近所の人に協力をお願いする

認知症の人が徘徊すると「近所に迷惑がかかる」と思いがちです。しかし、近所の人には「徘徊することがあるので…」と伝えておきましょう。もし一人でどこかを歩いているのを見かけたら家族に知らせてくれるので、早期発見につながります。

また地域の民生委員や警察署(駐在所や派出所)などにも徘徊することがあることを伝えておくと、安心です。

まとめ

認知症による徘徊は本人が行方不明になるだけでなく、周囲に迷惑をかけたり大事故を引き起こしたりする可能性があります。認知症の徘徊に関する知識を深め、対策を進めましょう。

  • 認知症はアルツハイマー型と前頭側頭型認知症に多く見られる症状で、脳が委縮したり、脳の神経細胞が失われたりするのが原因
  • 認知症の徘徊で年間のべ約1万人近くが行方不明になり、そのうち約350人が死亡している
  • 認知症の対策には国や自治体も力を入れているので、気軽に相談をすること
  • 家庭でできる認知症の対策としては、衣類や持ち物に名前と住所、電話番号を記入する方法やGPS装置を持たせる方法などがある
  • ベッドを離れたり、玄関から出ようとしたりするとセンサーが感知してチャイムで知らせる装置なども有効
  • 徘徊することを叱らずに優しく声をかける。さらに近所の人や警察、民生委員などにも徘徊することを伝えておく

このようにさまざまな対策があります。家族だけで抱え込まずに、周囲に協力を求めていきましょう。