超高齢化社会に向けてますます介護現場で働く人が求められる時代ですが、「介護の仕事は大変」というイメージが強いからか、介護職員の不足が問題になっています。
介護現場の現状はどうなっているのでしょう。職員が不足する原因やその対策を探ります。
このページの目次
1.介護職員不足の現状

介護職員不足が懸念されていますが、現状を見てみましょう。
まず、介護が必要な人の数ですが、これは年々増加しています。厚生労働省が実施している「介護サービス施設・事業所調査」によると、介護保険制度が始まった平成12年度の要介護者(要支援者含む)は218万人でしたが、平成25年度は564万人になり平成12年度の約2.6倍に増えています。一方、介護職員の数は平成12年度は54.9万人でしたが、平成25年度は176万人で約3倍に増えています。介護が必要な人の約3人に1人、介護職員がいるという計算になります。
ただ介護の現場では「不足感を感じる」という声が出ています。特に訪問介護系の事業所では、42%の事業所が人手不足を感じているようです。
それを裏付けるように介護分野の求人倍率は常に4.0倍以上で、全職業の1.0前後よりもはるかに多くなっています(厚生労働省「職業安定業務統計」)。
1-1.介護職員は将来的にも不足する!?
高齢化社会が進むにつれて介護職員の数はさらに必要だと考えられています。厚生労働省の試算では平成37年度(2025年)には237万人~249万人が必要という推計値が出ています。しかし、現状のまま推移するとその年の介護職員の数は218万人~229万人で20万人ほど不足する計算になります。
また、内閣府の発表によると高齢者の数は団塊の世代が75歳以上になる平成37(2025)年に3,657万人になり、その後も増え続けて2042年にピークを迎えて3,878万人になると予測しています。2042年以降は高齢者人口は少しずつ減少していきますが、日本の人口全体が減少するために高齢化率は上昇していきます。労働者人口が減少し、介護分野でも人手不足が予測されます。
2.介護職員が不足する原因

介護職員が不足している原因について、採用する事業者側と働く介護職員側の両面で見てみましょう。
2-1.介護事業者が考える介護職員不足の原因
介護関係の事業者へのアンケートによると介護職員が不足する理由として
- 採用が困難である(68.3%)
- 事業を拡大したいが人材が確保できない(19.3%)
- 離職率が高い(17.5%)
となっています(公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」より)。
また、同じ調査で採用が困難な理由を聞いたところ、
- 賃金が低い(57.4%)
- 仕事がきつい(精神的・身体的)(48.3%)
- 社会的評価が低い(40.8%)
- 休みが取りにくい(23.0%)
- 雇用が不安定(16.6%)
という答えでした。
特に賃金に関しては「今の介護報酬では人材確保や定着のために十分な賃金をはらえない」という意見や「経営が苦しく、労働条件や労働環境の改善をしたくてもできない」といった事業者の悩みが目立ちます。
2-2.介護職員が考える現場の悩み
一方、介護現場で働く介護職員は次のような悩みを抱えています(公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」(平成27年度))。これによるとやはり人手不足が深刻であることがわかります。特に人手不足のために有給休暇が取れないとか、労働時間が不規則になるといった問題が発生していることがうかがえます。また、十分な人材が足りないことから身体的にも負担がかかっていることがわかります。
- 人手が足りない…50.9%
- 仕事内容のわりに賃金が低い…42.3%
- 有給休暇が取りにくい…34.6%
- 身体的負担が大きい…30.4%
- 業務に対する社会的評価が低い…29.4%
- 精神的にきつい…27.9%
3.介護職員不足への対策

政府や介護の現場では少しでも人材を確保しようと対策を取っています。
3-1.介護事業者の職員不足の対策
公益財団法人介護労働安定センターが介護事業者に対して「早期離職防止や定着促進のための方策」(平成27年度)を調査したところ、次のような結果が出ました。
- 労働時間(時間帯・総労働時間)の希望を聞いている…68.4%
- 職場内の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている(定期的なミーティングや意見交換など)…60.9%
- 賃金、労働時間等の労働条件を改善している…59.5%
- 非正規雇用から正規雇用への転換の機会を設けている…50.5%
- 能力や仕事ぶりを評価し、配置や処遇に反映している…42.0%
- 能力開発(社内研修や社外講習など)を充実させている…41.5%
- 仕事内容の希望を聞いている(持ち場の移動など)…38.1%
- 業務改善や効率化による働きやすい職場作りに力を入れている…37.8%
- 経営者・管理者と従業員が経営方針、ケア方針を共有する機会を設けている…36.4%
- キャリアに応じた給与体系を整備している…35.6%
ほかにもメンタルヘルスの相談窓口を設けたり、健康管理に力を入れたりといった対策を行っています。働く人の不満や悩みに寄り添った対策を取っていることがわかります。
3-2.介護職員不足に対する政府の対策
政府は介護職員として働きたい人のための支援と雇用する事業者のための支援を行っています。
3-2-1.働きたい人のための支援
まず、介護職員として働きたい人のための支援として、多くの取り組みをしています。ここでは2つご紹介します。
福祉・介護人材の参入促進(福祉・介護人材確保緊急支援事業)
対象者:
介護分野に関心があり、介護の職務内容を知りたい人
支援(助成)内容:
介護事業所での介護セミナーやボランティア体験などを通じて、介護の職務内容や実際の雰囲気を知ることができる
福祉・介護人材マッチング機能強化(福祉・介護人材確保緊急支援事業)
対象者:
自分にあう環境を探したい人、職場環境や人間環境について相談したい人
支援(助成)内容:
専門員が、求職者の希望と適正にあった職業紹介、終業後の相談・支援などを行います
ほかにも多くの支援メニューがあります。詳しくは「介護労働支援ガイド」をご覧ください。
このように介護の資格取得のための資金援助や職業訓練、ハローワークでの職業紹介などさまざまな取り組みがあります。介護の仕事を探す人は有効に活用してみましょう。
3-2-2.事業者に対しての支援
事業者に対しては次のような対策を取っています。
- 人材マッチング支援…都道府県の福祉人材センターで各介護施設のニーズを聞いて人材採用のアドバイスをしたり、ハローワークで介護系の人材を確保するように働きかける
- 職業訓練の支援…事業者が短期間の訓練生(実習生)の受け入れをするように支援し、採用につなげる
- キャリア形成支援…雇用する従業員に職業訓練などを実施する際に、訓練期間中の賃金や訓練経費の一部を助成する
- 代替職員の確保…職員に研修を受けさせる場合に代替職員を確保するための支援
- 中小企業労働環境向上助成金の支給…移動用リフトなど介護福祉機器を導入した経費の2分の1を助成する
- 研修コーディネート事業…介護施設での教育訓練のノウハウなどに関する相談や情報提供を行う
などがあります。
また、都道府県単位で介護職員の人材確保のための取り組みを実施しています。
4.介護職員の本音は働き続けたい

介護職員の離職率は16.8%で全産業の12.4%よりも高くなっています。しかし、この離職率の推移を見てみると、平成19年度は21.6%と高かったのが平成25年度には16.6%と大幅に下がっています。
また、現在介護職員として働いている人の65.5%が「今の仕事を続けたい」、57.5%が「今の勤務先で働き続けたい」と答えています(公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」(平成27年度))。
このように介護の仕事にやりがいを感じて続けたいと考えている人が多くいます。今後さらに人材不足が懸念されるだけにもっと働きやすくするとか給料UPといった待遇の改善が期待されます。
まとめ
介護職員不足の問題は、現在だけでなく今後も続くことから何らかの対策が求められます。現状や原因をまとめると次のようになります。
- 現在の介護職員の数は介護が必要な高齢者の3人に1人程度である
- 今後さらに高齢化が進み、若い人の人口が減少するため、ますます介護職員の数は不足すると予測される
- 介護の事業者は人手不足を感じているが、現在の介護保険制度では経営が厳しく給料UPが難しい
- 政府は事業者への支援と働く人や仕事を探す人のための支援を行っている
- 現在介護の現場で働いている人は「続けて働きたい」と考えている人が過半数である
介護の仕事は大変さもありますが、やりがいもあります。高齢化社会に向けて働きやすい環境作りが急務だと言えます。